

自然に包まれ、のびのびと暮らす日々
「豊かな自然に囲まれた環境で子どもを育てたい」。そんな願いから、山本清尊さん・亜耶さんご夫妻が選んだのは、田んぼと山に囲まれた、懐かしさを感じるこの場所だった。長男の蒼くん、長女の莉亜ちゃんとの4人で暮らす住まいは、自然と調和するように設計された平屋。景色に溶け込むような佇まいが、家族の暮らしをやさしく包み込んでいる。
「自分が自然の中で育ってきたから、子どもたちにも同じような環境で育ってほしくて」。そう語る清尊さんがこの土地を選んだのは、ごく自然な選択だったそうだ。始めは平屋を建てるつもりはなかったが、この土地に立った瞬間、景色に心を奪われた。「ここには背の高い建物よりも、地面に近い平屋が似合う」。そう直感したという。
玄関の扉を開けた瞬間、正面の窓いっぱいに広がる借景が目に飛び込んでくる。自然と向き合うように設計されたその空間は、ただ“家に入る”という日常を豊かな瞬間に変えてくれる。蒼くんと莉亜ちゃんが駆け回る声が聞こえる中、家族は今日も、自然とともにある暮らしを楽しんでいる。


家族と過ごす、ゆっくりと流れる時間
休日になると、ウッドデッキのある庭は家族のリビングになる。清尊さんはコーヒーを片手にぼんやりと過ごしたり、ちょっと仕事をしたり。家族みんなで朝食を食べていると、ここだけ時間がゆっくり流れているように感じるそうだ。すぐそばを天竜浜名湖鉄道の電車が走り抜けるのも、この庭ならではの風景。「外の景色を見ながら過ごせるので、本当に贅沢だなと思っています」と清尊さん。
朝食を終えると、家族それぞれの時間がはじまる。蒼くんと莉亜ちゃんは庭で遊び、清尊さんは木々の手入れに取りかかる。亜耶さんは静かな空間で本を読んだり、台所に立ってお菓子をつくったり。それぞれが別の時間を過ごしながら、同じ場所で同じ空気を共有している感覚が心地いいという。
家の中からも、庭で遊ぶ子どもたちの姿が自然と目に入ってくる。ソファに腰掛けながら夫婦で会話を交わし、映画を楽しむときもある。出かけなくても“満たされる”という感覚は、外と内とがつながるこの家ならでは。何気ない時間の一つひとつが、ゆとりに満ちた暮らしを物語っている。


素材の変化も、家族の時間の一部になる
この家では、素材そのものが“時の流れ”を映し出す。床材に選んだブラックチェリーは、月日を重ねるごとに色合いが深まってゆくそうだ。「僕たちは“経年劣化”じゃなくて、“経年美化”と呼んでるんです」。清尊さんはその変化を、家族の時間と重ね合わせて楽しんでいる。
床だけでなく、漆喰の壁は自然素材ならではの調湿性のおかげで、梅雨の時期でも空気はさらりと快適に過ごせる。「夏のジメジメした日でも、この家はカラッとしていて快適。空気そのものが違う気がします」。素材が“呼吸する”という言葉を、まさに実感できる住まいだ。
暮らしのなかで自然素材に触れることが、感覚をひらいてくれる。光の入り方、風の抜け方、床の質感や香り。そんな一つひとつに気づくとき、家と自分の関係がより近づいていく。「素材の変化に合わせて、こちらの感覚も自然と変化するような気がしています」。その言葉には、素材との対話のような感覚がある。この家で暮らすようになって、季節や時間の変化に対する感覚が鋭くなったという清尊さん。素材の変化やふとした瞬間の気づきが、家族の豊かな時間に重なっていく。



自然とともにある住まい
家を建ててからというもの、庭で過ごす時間が確実に増えたという。広々とした空間で走り回る子どもたちの姿は、心地よさの象徴のようにも思える。友人家族を招いてバーベキューを楽しむ休日も増え、家を囲む時間そのものが、暮らしの一部として定着しているという。植物の手入れも、家族で取り組む楽しみのひとつ。蒼くんは草刈りや水やりを手伝ってくれるようになり、外国の種から育てた花々の成長を清尊さんと一緒に観察する。「植物に興味を持って自分から手伝ってくれるんです」。自然が身近にある住まいが、家族の関係も育ててくれていることを感じる。
「私たち人間って、昔は森の中に住んでたのかなと思うんです。目に見えたり、手で触れたり、そういった環境で過ごせるのは、今の時代にはすごく贅沢だなと感じますし、そのロケーションを最大限に活かした家を造りたかったんです」。
清尊さんの言葉の通り、この家は“自然とともにあること”が、暮らしの中心に根を下ろしている。それは見た目や機能だけではなく、五感で心地よさを感じられる、まさに“地球品質”の家。家族の暮らしに寄り添いながら、穏やかな日常を積み重ねていける豊かさが、この家にはある。